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■ハードル論■


●前書き

 ポケモンカードゲームにおいて、対戦で勝利をするには、何らかの勝利条件を相手より早く満たす必要がある。勝利条件はいくつかあるが、このうち主な勝利条件としては、「サイドカードを全て引ききる」、「相手のポケモンを全滅させる」、「ターン開始時に相手が山札を引けない」・・・この3つであろう。これらの条件のいずれかを相手よりも早く満たせばいいのである。

 ・・・とまあ、文章にすると、一文で表せるほど至極簡単な事ではあるが、この"たった一文の条件"を満たす為には、ルール上の制限から生まれてくる大小様々なハードルが待ち構えている。そして、プレーヤーは、ありとあらゆる手を使って、相手よりも早く全てのハードルを突破して勝利条件を満たそうとするのである。
 様々な制限の中、いかにして、効率よくハードルを突破して勝利条件を満たすか。・・・これも、デッキ構築、プレイングにおける課題の一つではないだろうか。

 という訳で、今回はポケモンカードゲームにおける対戦中のハードルについてのお話です。
 

●ルールと制限

 まずは、話の本題に触れる前に、ポケモンカードゲームにおける制限についての説明をしておく。ポケモンカードゲームは、発売当初から何度となく大小様々なルール変更・改正をしてきているが、根本的なルールについては、96年の発売時から殆ど変わってきていない。おそらく、これからも根本的な部分については変わる事はないだろう。
 さて、これからルール上の制限についての話をするが、大まかに区分すると、「デッキに関する制限」、「手札に関する制限」、「エネルギーに関する制限」、「ポケモンに関する制限」、「攻撃に関する制限」の5つに分ける事が出来る。それぞれのルール上の制限について、下記にまとめてみた(対戦ルールは、シングルバトル、60枚戦とする)

「デッキに関する制限」
   ・デッキは60枚
   ・同名カードはデッキに4枚まで(基本エネルギーを除く)
   ・☆カードはデッキに1枚まで
   ・たねポケモンはデッキに最低1枚以上入れる

「手札に関する制限」
   ・初期手札は7枚
   ・ターンの始めに必ず山札から1枚ドロー
   ・サポーターカードは1ターンに1枚のみ使用可能

「エネルギーに関する制限」
   ・エネルギーは1ターンに1枚のみ、手札からつける事が可能
   ・エネルギーカードをつけたら、自分の意思で移動出来ない
   ・条件を満たさないとポケモンにつける事が出来ないエネルギーがある

「ポケモンに関する制限」
   ・ベンチには5匹、バトル場には1匹までしかポケモンを出す事が出来ない
   ・ポケモンが場にいないと負け
   ・場に出したポケモンは自分の意思で排除出来ない
   ・進化は1ターンに1段階のみ
   ・ポケモンを場に出したターンに進化出来ない
   ・進化カードは特定のポケモンのみにしか使用出来ない
   ・進化前の能力は使用出来ない
   ・自分の意思で退化出来ない
   ・ポケパワーやポケボディーは、ポケモンが場に出て条件を満たす事で使用可能

「攻撃に関する制限」
   ・1ターンに1回だけ攻撃可能
   ・バトル場にいるポケモン1匹のみが攻撃可能
   ・相手のバトルポケモンにしか攻撃出来ない
   ・技に必要エネルギーがついていなければ攻撃出来ない
   ・逃げるは1ターンに1回のみ
   ・相手ポケモンのHP以上のダメージを与えなければ、気絶させる事が出来ない

 このように、大小様々なルール上の制限がある。私達は、普段からこのルール上の制限の中で対戦をしているのである。
 

●ハードルの種類

 さて、上記でルール上の制限について説明をしたので、次に、ルール上の制限から生まれるハードルについて話を進めて行く事にする。当然ではあるが、上記の制限よりハードルが発生する事になる。

 「あと1匹、相手のポケモンを倒せば、自分が勝利する事が出来る。」
 ・・・そのような状況になったとしよう。

 しかし、この状況まで相手を追い詰めたとしても、勝利を得るには、「1ターンに1回だけ攻撃」、「バトル場にいるポケモン1匹のみが攻撃可能」、「相手のバトルポケモンにしか攻撃出来ない」、「必要なエネルギーがついていないと攻撃出来ない」などの攻撃に関するハードルが付きまとい、条件を満たしたポケモンしか攻撃が出来ない。
 また、攻撃を行ったりポケパワーやポケボディーを使用したりするポケモンも、「進化は1ターンに1回のみ」、「特定のポケモンにしか進化出来ない」という進化に関する制限や、「場のポケモンは自分の意思で排除出来ない」、「ベンチは最大5匹まで」等のポケモンに関するハードルを受け、条件を満たしたポケモンしか出現を許さない。
 ポケモンが攻撃を行うに際して必要なエネルギーも、「1ターンに1枚しかつける事が出来ない」というルールに縛られている。しかも、ダメージの大きい攻撃程、使用エネルギーが多くなるようにカードは設計されている。
 エネルギー、ポケモン・・・それらを可能性から現実の脅威にする為には、手札として引いて使用しなければならない。しかし、ここにも「初期手札は7枚」、「毎ターン1枚ドロー」という手札を拘束するハードルが存在する。一部の心ない人間が、ポケモンカードを「運ゲー」、「引きゲー」と呼ぶ所以でもある。
 そして、それらカードを手札として引く可能性を得るには、デッキの中にそれらカードを入れる必要性がある。だが、この大前提の条件にさえ、「デッキは60枚」、「同名カードはデッキに4枚まで」というデッキに関するハードルが控えている。だから、人々はメタゲームの変動に細心の注意を払い、デッキ構築というたった60枚のカードを選ぶ作業に最も苦心するのである。

 これらハードルをまとめると、以下の表となる。

ハードル名 制限対象 内容
第1ハードル デッキ デッキ内のカードしか使用出来ない
第2ハードル 手札 引いたカードしか使用出来ない
第3ハードル エネルギー ポケモンにつけたエネルギーしか使用出来ない
第4ハードル ポケモン 条件を満たしたポケモンしか場に出て行動出来ない
第5ハードル 攻撃 条件を満たしたポケモンしか攻撃出来ない
勝利条件の達成

 対戦において、常に勝利を得る事が出来るデッキ・・・それは、相手よりも早く全てのハードルを突破する事が出来るデッキなのである。
 

●ハードル破壊

 ここまで、ルール上の制限から生まれる各ハードルについての概要を述べてきた。これら全てのハードルを相手よりも効率よく突破する事が、勝利への近道だと言える。さらに、これを推し進めて考えると、これらの内の1つ以上のハードルを無力化する事により、相手より圧倒的に早く勝利条件を満たす事が出来る。
 本当だろうか。・・・では、例を挙げて説明しよう。

 例えば、かなり昔のデッキではあるが、00'夏に大流行した「ワニカメ」。キースキームとして「カメックス(1)」と「オーダイル(PF1)」を用い、強力ドローカードによってデッキを一気に掘り下げていき、毎ターン100D以上のダメージをコンスタントに与えていく、当時としては最速・最強のデッキである。
 当時(2000年)は、サポータールールという概念がなく、「オーキドはかせ」や「カスミのいかり」の打ち放題による大量ドローで、第2ハードルは全く役目を果たさず、また、カメックスのポケパワー「あまごい」によるエネルギー加速で、第3ハードルも完全に意味を為さない。しかも、上記2枚のドローカードと「トラッシュ交換」により、毎ターン、トラッシュに水エネルギーを10枚以上落とす事は容易に可能であり、たった3エネから100Dをいとも簡単に叩きだす事が出来る。
 ・・・こうなると、もはや、ポケモンカードをやっているという感覚はなく、ただ、「引きゲー」、「先攻ゲー」、「当たりゲー」以外の何物でもない。以後の大会で、まとめて制限を受けたのも当然だろう。

 このように、ハードルを無力化するカードを入れる事で、非常に強力なデッキを作りあげる事が可能である事を判って頂けただろうか。・・・まあ、ここまでぶっ壊れたデッキはほっといて、そうでなくても多くの強いデッキというのは、対戦相手よりも効率よくハードルを突破するようなカードを入れて作られている。
 例えば、「ピジョット(PCG1)」や「エネコロロ(ADV1)」は第2ハードルを、「マルマインex(PCG1)」や「サーナイト(ADV1)」は第3ハードルを、「ふしぎなあめ」や「ミツルの育成」は第4ハードルを、「ポケモンリバース」や「ちからのかけら」は第5ハードルを、それぞれ相手よりも早く突破する事で勝利を目指しているのである。
 

●ハードル強化

 対戦で勝利を得るには、ハードルを効率よく突破する事が必要不可欠である事は、これまでの文章で論じてきた。しかし、前述したハードルを突破する事のみに全力を傾ける必要はない。アドバンテージを得る手法には、リソースを大量に得る手法と、相手の動きを拘束しリソースを減らす事で、相対的にアドバンテージを得る2種類がある。当然ながら、この考えはこの理論にも当てはまる。
 つまり、ロックにより相手のハードルを強化する事で、相手の勝利条件の達成を困難にする事も可能である。その結果、相対的に自分の勝利条件の達成を早くするのである。・・・これがハードル強化である。

 これも、実例を挙げて説明しよう。
 99’チャンピオンズリーグを席巻した「タケキュウ」。「タケシのキュウコン(ジム拡張1)」のポケパワー「ばける」をキースキームとして、化けたポケモンのポケボディーでトレーナーロックと進化ロックを掛ける事により、相手に何もさせないデッキである。
 まず、「プテラ(化石)」に化け、プテラのポケボディー「げんしのちから」で互いのポケモンの進化を止め、第4ハードルを強化する。さらに、「わるいラフレシア(R)」に化け、わるいラフレシアのポケボディー「アレルギーかふん」で互いのトレーナーカードの使用を禁止する事で、第2ハードルをより強固な物にする。あとは、処理する事が出来ずに溜まりに溜まった相手の手札を「ゴースト(シート緑)」でダメージに変換する。当時は、「ふしぎなあめ」や「ミツルの育成」等の1ターン目に進化を行えるカードが存在せず、後攻になってしまうと100%勝てないという最悪な状況に陥る。ロックを掛けられた方は、相手が勝利条件を満たすまで、ターンエンドを繰り返すしかない。
 ・・・自分のデッキでやりたい事さえやらせてもらえず、相手が勝利条件を満たすまで、半ば飼い殺し状態が続くようなゲームが面白いわけがない。その後、タケシのキュウコンにエラッタ(化けたポケモンの特殊能力は使用出来ない)が出たのは有名な話である。

 ハードル破壊だけでなく、ハードルを強化する事によっても、強力なデッキを作りあげる事が可能である事を判って頂けただろうか。・・・これも極端な例ではあるが、やはり強いデッキの中には、対戦相手のハードルを強化するカードを入れる事で、自分の勝利条件の達成を早めるデッキは存在する。
 例えば、「マグマ団のコータス(ADVex1)」や「ドサイドン(DP1)」は第1ハードルを、「ロケット団の幹部」や「ヘルガー(PCG6)」は第2ハードルを、「エネルギーリムーブ」や「逆転マジックハンド」は第3ハードルを、「巨大な切りかぶ」や「封印の結晶」は第4ハードルを、「ヌケニン(ADV3)」や「ユレイドル(ADV2)」は第5ハードルを強化して、相手の勝利条件の達成を困難にし、相対的に自分の勝利条件の達成を早めようとしているのである。
 

●ハードル強化と勝利条件

 さて、ハードル強化によっても、相対的に勝利条件の達成を早める事が判って頂けたと思うが、ここで1つ注意すべき点がある。

 ハードル破壊を行うデッキは、エネルギーや手札などの自らに課されたハードルを突破する事により、相手が序盤であるうちに、自分の場が終盤に近い展開を行う事で勝負を決めに掛かる。それ故に、能動的に相手を攻め立てていくのに対し、ハードル強化を行っていくデッキは、相手の勝利条件の達成を困難にする事を"維持し続ける"事・・・言い換えれば、ロックを掛け続ける事を戦略の中心に据える事が多い。しかし、ロックを行い続ける事が、勝利条件とは直接に結びつくわけではない。

 確かに、ロックによって得られるアドバンテージは、エネルギーや手札などの拘束で相手が自由に動けないうちに、自分が自由に動ける環境を提供してくれるものである。だが、あくまでそれは動ける可能性に過ぎず、そこで勝利条件と結びつくようにどう行動するかが重要なのである。結局の所、ロックで得られるアドバンテージは可能性のアドバンテージに過ぎず、"ロックを掛け続ける事=勝利"とは言えないのである。よくありがちなパターンとして、ロックしたはいいが、ロックが外れないようにする一点だけに力を注ぎ込んでしまい、その結果、自分がハードルを突破出来ず、ゆっくりとではあるが相手にハードルを突破されて負ける・・・と言う事もある。

 従って、ハードル強化を行うデッキをロックし続けるデッキと捉え、それをコンセプトとしてデッキを構築した場合、そのデッキは勝ちに繋がりにくいデッキとなってしまう可能性を秘めている。
 その為、ロックデッキは、デッキが最低限回る為のカードを入れ、ハードルを強化するようなカードを入れ、かつ、勝利条件となるようなカード(大抵は、軽量なダメージソース)を入れなければならない。大抵の場合、ハードル強化を行うデッキは、ロックの部分にスペースを割き、軽量なカードを求める都合上、ハードル破壊のデッキと比べ、勝ち筋のカードが弱いのは否定出来ない事実である。
 だが、ハードルを強化する事により生まれる極わずかな優位な時間・・・この時間の間に、貧弱なダメージソースで削り切る、または再構築不能な状況まで追い詰める。これが、ハードル強化によるデッキのコンセプトなのである。ハードル強化をする事自体は、自分の勝利を確定させるものではない。あくまで、ハードル強化は自分が勝利条件を満たす為のプロセスとして捉えるべきである。

 デッキ構築や対戦において、このハードルという観点からも考えてみてほしい。いかにして、効率よくハードルを突破して勝利条件を満たすか・・・この考え方を意識する事で、デッキ構築やプレイング技術を向上させると私は信じている。
 


今回も概念的な話に終始してしまいました。


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