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■テンポ論■


●前書き

 ポケモンカードゲームのゲームバランスは、実に多くのルールの上に成り立っている。その中でも、エネルギーカードに関するルールの影響は、非常に大きい。
 曰く、「エネルギーカードは、1ターンに1枚しかつけることしかできない。」

 あなたが、ポケモンカードを始めたころを思い出してほしい。エネルギーを多く必要とし、攻撃力も高いポケモンが強いカードと思ったことはないだろうか。ところが、それらのポケモンをメインアタッカーとしてデッキ構築し対戦を行ってみると、思ったようにいかない。持っているカードで最強であるはずの自分のアタッカーが育つ前に、相手の軽量ポケモンに倒されてしまう。これではマズいと思い、今度は軽いポケモンを中心に構成すると、相手の大型ポケモンの前に手も足も出なくなってしまう。……そのような経験は、ないだろうか。
 ポケモンカードゲームは、ゲームが進むにつれて、強力なワザが使用できるようにデザインされている。だが、前述のエネルギーに関するルールのために、序盤に有効なカードは終盤では役に立たないことが多く、逆にゲーム終盤で使用できるようなカードは、序盤ではただのお荷物と化す。良いデッキというのは、序盤から終盤まで効率よく動くデッキであるということが判る。では、効率のよいデッキ・プレイングとは何なのだろうか……
 その答えは、「テンポ」という言葉に隠されている。

 という訳で、今回は、ポケモンカードにおける「テンポ」という概念のお話です。
 

●What's テンポ?

 さて、まずはテンポという言葉について記述する。テンポという言葉自体は、多くの方がTCG以外の分野で聞いたことがあるだろう。また近年、TCGの世界でも用いられるようになってきた言葉である。テンポ(tempo)とは、音楽用語で「リズム・拍」、またそれが転じて「物事の進み具合」を示す。
 ・・・・・・では、ポケモンカードゲームにおけるテンポ、即ち、物事の進み具合とは何だろうか?

 ここで、ポケモンカードゲームを別の視点から見てみることにする。・・・・・・すると、最初に配られた7枚の手札から、「自分のサイドカードをすべて引く」、「相手の場のポケモンを全滅させる」などの勝利条件を相手よりも先に満たすためのレースと考えることができる。
 即ち、テンポとは、このレースにおいてどちらが先に進んでいるかを指し示す「ものさし」である。言い換えれば、勝利に対する先行度・優位性 として表現できる。
 

●What's クロック

 テンポの概念については、漠然とではあるがイメージして頂けたと思う。しかし、テンポという概念はハンドアドバンテージなどと異なり、数値として直接的に現れないため非常に理解しにくい。そのため、漠然とした意味であるテンポを、一体どのように評価すればよいのだろうか。そこで、テンポアドバンテージの定量化をしたいと思う。
 テンポアドバンテージ、即ち「勝利に対する優位性」を示す便利な定量的指標として、「クロック」という概念が存在する。クロック(clock)には、「一定刻み」という意味があり、それが転じて、あと何ターンで相手のポケモンを倒すことができるかを指す数字である。

 例えば、以下の状況を考えてみよう。
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  ・A氏のバトル場 : HP60、1エネ20ダメージのワザを持つポケモン
  ・B氏のバトル場 : HP60、1エネ30ダメージのワザを持つポケモン
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 A氏のポケモンは、B氏のポケモンを3回の攻撃(3ターン)で倒すことが出来る。この場合、A氏→B氏は、「3ターンのクロックが掛っている」状態である、という。
 逆に、B氏のポケモンは、A氏のポケモンを2回の攻撃(2ターン)で倒すことが出来る。即ち、B氏→A氏は、「2ターンのクロックが掛っている」状態である。

 勝利に対する優位とは、このクロック上の優位を指し示す。
 上記の状態では、クロックは「A:B=3:2」となり、B氏がクロック上での優位を獲得していることになる。このクロックの差により、B氏がA氏のポケモンを1ターン速く倒すことができるため、ゲームを優位に進めることが出来ることは明らかである。言い換えれば、勝利までのレースにおいて、B氏がA氏より1ターン先に進んでいる。この差が、勝利までのレースにおける差として現れる。これこそが「テンポ」であり、その差により発生する優位性(アドバンテージ)をテンポアドバンテージと呼んでいる。

 当然ながら、クロックは少ない方が有利である。ボード上に存在するカードの数が増えていくことで、クロック上での優位がどちらのプレイヤーに転がっているか、判断は非常に困難になっていく。しかし、単純化して考えていくと、上記の状態が基本となる。
 

●テンポアドバンテージの獲得

 テンポとは、対戦相手との勝利までのレースにおける差、即ち、クロックの差として盤面上に表わされる。そして、クロックが常に相手よりも少ない状態をキープし続けることができれば、ゲームに勝利できることは容易に想像できるだろう。従って、クロックの奪い合いによるテンポの獲得こそが、ポケモンカードゲームの本質である。極論すれば、ポケモンカードゲームにおいて、最も重要なアドバンテージは、テンポアドバンテージといえる。

 さて、テンポを獲得する意味は理解されたと思うが、対戦中にテンポを獲得するにはどうすればよいだろうか?
 実例を上げながら、順に見ていくことにしよう。
 
(1) 攻撃力の差
 上記「What's クロック」と同じとなってしまうが、以下の状況を考えてみよう。
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  ・A氏のバトル場 : HP60、1エネ20ダメージのワザを持つポケモン
  ・B氏のバトル場 : HP60、1エネ30ダメージのワザを持つポケモン

 上記の状況において、どちらのカードが強いだろうか?
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 どちらのポケモンも、HP、ワザに必要なエネルギーは同じであり、ワザのダメージだけが異なる。しかし、この差がテンポを生じさせる決定的な差を生んでいる。
 具体的にいえば、相手のポケモンを倒すのに、A氏は3ターンを要するのに対し、B氏は2ターンで済む。このポケモンの攻撃力の差、言い換えばワザの効率性の違いにより、盤面に及ぼす影響が変化する。
 攻撃の機会は互いのプレイヤーに同じ回数与えられるため、1回の攻撃の際に、より効果の高い行動が出来ることで、テンポを得ることが出来る。

 上記例の場合、同じエネルギーでの「攻撃力の差」により、テンポアドバンテージが発生している。

 ただし、ここで注意しなければならないのは、単純に攻撃力が上がればテンポを獲得できるわけではない。
 もし、A氏のポケモンのワザのダメージが20から30に上がった場合、クロック数が変化するため、テンポアドバンテージにも影響を及ぼす。一方、B氏のポケモンのワザのダメージが30から40に上がったとしても、A氏のポケモンを倒すためのクロック数は変わらないため、テンポアドバンテージは変化しない。
 (もちろん、相手の場にHP70以上のポケモンが出てくれば意味があるため、潜在的なテンポアドバンテージは存在する。しかし、あくまでそれは可能性としてのアドバンテージである。)
 
(2) ポケモンのHP
 次に、以下の状況を考えてみよう。
-------------------------------------------------------------------------------------------
  ・A氏のバトル場 : HP60、1エネ30ダメージのワザを持つポケモン
  ・B氏のバトル場 : HP110、1エネ30ダメージのワザを持つポケモン

 上記の状況において、どちらのカードが強いだろうか?
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 この例の場合、ポケモンの攻撃力、即ちワザの効率性は全く同じである。しかし、ポケモンのHPの差、言い換えば、場持ちの良さの違いにより、盤面に及ぼす影響が変化している。具体的にいえば、相手のポケモンを倒すのに、A氏は4ターンを要するのに対し、B氏はわずか2ターンで済む。
 攻撃の機会は互いのプレイヤーに同じ回数与えられる。より長く場に残り続けることが出来れば、1匹のポケモンで攻撃できる回数が増え、テンポを得ることが出来る。

 上記例の場合、ポケモンの「HPの差(場持ちの良さ)」によって、テンポアドバンテージが発生している。

 テンポアドバンテージ獲得のため、単純にHPの高いポケモンを使用する以外に、ポケモンの「進化」が有効である。大抵の場合、最大HPが上昇することから、テンポの獲得に貢献する。
 進化は、カードアドバンテージの観点だけで見れば、複数枚のカードを使用するために、きぜつしてしまえば大きくアドバンテージを取られてしまう非常にリスクの高い行動であり、極論すれば避けるべき行動と言える。一方、テンポアドバンテージの観点から捉えれば、クロック数の減少と場持ちの向上が期待できることから、非常に効果の高い行動と言える。
 また、ポケモンの攻撃力が低い環境であるならば(もしくは、鋼エネルギーなどで受けるダメージ量を低く出来るのであれば)、回復という行為もテンポの獲得に貢献する。自分のポケモンが倒されるまでのターン数が増加し、より長く場に残り易くなるためである。
 
(3) 攻撃までの速度
 次に、以下の状況を考えてみよう。
-------------------------------------------------------------------------------------------
  ・A氏のバトル場 : HP60、1エネ30ダメージのワザを持つポケモン
  ・B氏のバトル場 : HP200、8エネ500ダメージのワザを持つポケモン

 上記の状況において、どちらのカードが強いだろうか?
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 当然ながら、ポケモンが場に出てワザを打てる状況であれば、B氏のポケモンが強い事は火を見るよりも明らかである。クロックに当てはめれば、(A氏):(B氏)は7:1となり、B氏が圧倒的に優勢と言える。
 ・・・・・・ですが。B氏が何の補助手段を用いずに、ただエネルギーが8枚溜まるまで毎ターン、ポケモンにエネルギーをはっているだけだとすれば?・・・・・・それでは、B氏のポケモンが殴り始める前にA氏のポケモンが7回殴って、”きぜつ”させてしまうことになる。

 B氏は7ターンの間、ただエネルギーをつけるだけ。その一方で、A氏は7回の攻撃が可能となる。攻撃を行うにはエネルギーを用意する必要があり、クロックとして機能するまでの時間も加味すれば、クロックは「A:B=7:8」となる。実際は、A氏がテンポを獲得している。
 先攻・後攻の差はあれ、ターンが平等に与えられている以上、行動の機会は互いのプレイヤーに「同じ時間」だけ与えられている。攻撃機会をパスするか、しないか。この行動の効率性により、テンポを得ることが出来る。

 上記の例の場合、「攻撃までに要する時間(速度)」により、テンポアドバンテージが発生している。

 テンポを稼ぐ方法として、軽いワザを持つポケモンでデッキを構成する以外に、「エネ加速」という手段がある。相手よりも、1枚エネルギーが多いと言う事は、通常よりも1ターン分早くワザを使えることを意味する。
 上記例において、B氏が《無色2個エネルギー》を手札に4枚持っていると仮定したらどうだろう。すると、エネルギーを2個分つけるのに2ターン掛かっていた行動が、《無色2個エネルギー》を用いることでわずか1ターンで済んでしまう。これにより、攻撃までに要する時間は《無色2個エネルギー》を4枚用いることでわずか4ターンにまで短縮され、クロック上の優位は逆転する。この例では、《無色2個エネルギー》4枚が4ターン分のテンポを稼いだ。
 
(4) テンポを奪うカード
 ここまで紹介した3例は、互いのプレイヤーに与えられている時間は同じであるため、その時間内でより効率の良い行動を行うことで、テンポを獲得している。これが、テンポアドバンテージの本質である。
 第1の手段として、「より大きいダメージで攻撃する」こと。第2の手段として、「より場持ちを良くする」こと。第3の手段として、「より速く攻撃する」こと。これらの行動で、テンポを獲得している。

 しかし、テンポアドバンテージを得るには、テンポを獲得することだけが全てではない。テンポは、勝利条件を「対戦相手より」も先に満たすためのレースでの優位であることから、第4の方法としてテンポを奪うこと、即ち、対戦相手の行動をなかったことにすることで、テンポアドバンテージを得ることが出来る。
 特に、ポケモンカードゲームは育てるカードゲームのため、テンポを奪うカードは非常に効果的に働く。

 具体的な例を示そう。以下の状況があったとする。
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  ・A氏のバトル場 : HP100、3エネ50ダメージのワザを持つポケモン
  ・B氏のバトル場 : HP100、3エネ50ダメージのワザを持つポケモン

  ・A氏の手札 : 闘エネルギー×6
  ・B氏の手札 : 闘エネルギー×6
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 A氏を先攻とした場合、ゲームの流れは下記となる。

  ■先攻 第1ターン: A氏 エネルギー1枚目をつける
  ●後攻 第1ターン: B氏 エネルギー1枚目をつける
  ■先攻 第2ターン: A氏 エネルギー2枚目をつける
  ●後攻 第2ターン: B氏 エネルギー2枚目をつける
  ■先攻 第3ターン: A氏 エネルギー3枚目をつける、A氏の攻撃 → 残り HP50
  ●後攻 第3ターン: B氏 エネルギー3枚目をつける、B氏の攻撃 → 残り HP50
  ■先攻 第4ターン: A氏 A氏の攻撃 → 残り HP0 (A氏の勝利)

 説明するまでもないが、このゲームではA氏が常に勝つ。


 テンポを奪う代表例として、《エネルギー・リムーブ》というカードが存在する(現環境では、《クラッシュハンマー》)。効果は、以下の通りである。
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 《エネルギー・リムーブ》

 コインを1回投げオモテなら、相手のポケモンのエネルギーを1個選び、トラッシュする。
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 次に、以下の状況を考えてみよう。説明のため、コインは必ず「オモテ」が出るとする。
-------------------------------------------------------------------------------------------
  ・A氏のバトル場 : HP100、3エネ50ダメージのワザを持つポケモン
  ・B氏のバトル場 : HP100、3エネ50ダメージのワザを持つポケモン

  ・A氏の手札 : 闘エネルギー×6
  ・B氏の手札 : 闘エネルギー×5、《エネルギー・リムーブ》×1
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 先程と異なり、B氏の手札に《エネルギー・リムーブ》が1枚存在する。同じくA氏を先攻とした場合、ゲームの流れは下記になる。

  ■先攻 第1ターン: A氏 エネルギー1枚目をつける
  ●後攻 第1ターン: B氏 エネルギー1枚目をつける、《エネルギー・リムーブ》で、エネルギーを1枚はがす。
  ■先攻 第2ターン: A氏 エネルギー1枚目をつける
  ●後攻 第2ターン: B氏 エネルギー2枚目をつける
  ■先攻 第3ターン: A氏 エネルギー2枚目をつける
  ●後攻 第3ターン: B氏 エネルギー3枚目をつける、B氏の攻撃 → 残り HP50
  ■先攻 第4ターン: A氏 エネルギー3枚目をつける、A氏の攻撃 → 残り HP50
  ●後攻 第4ターン: B氏 B氏の攻撃 → 残り HP0 (B氏の勝利)

 たった1枚のカードの存在により、今度はB氏が常に勝つ。

 注目すべきは、後攻第1ターン。
 《エネルギー・リムーブ》により、A氏のポケモンからエネルギーを1枚はがした。これにより、A氏は本来3ターン目に攻撃できるはずが、4ターン目からの攻撃となり、行動が1ターン分遅れている。《エネルギー・リムーブ》は、エネルギーを1枚はがしただけではなく、相手の第1ターンをなかったことにした。即ち、《エネルギー・リムーブ》がテンポを獲得したのである(相手から見れば、テンポを失った)。

 ここで注意しなければならないのは、もし、B氏が第3ターンに《エネルギー・リムーブ》を使用した場合。
 効果としては、同じくエネルギーを1枚はがしている。しかし、この場合はテンポを得られない。なぜならば、A氏のポケモンには攻撃を行うための十分なエネルギーがついており、すでにクロックを用意できている。そのため、先程の例とは異なり、A氏は第4ターンにエネルギーをつけることで再度攻撃が可能であり、行動が1ターン分遅れることにならない。
 もちろん、A氏の手札にエネルギーが存在しなければ攻撃が出来なくなるため、テンポアドバンテージを得られることもある。ハンデス等により、対戦相手の手札を十分に減らしている状況であれば、効果的な場面も存在するだろう。しかし、それはあくまで可能性である。

 エネルギーカードをはがすことが、テンポを奪うのではない。エネルギーをはがすことにより、クロックを用意するまでの行動が遅れることで、テンポが得られるのである。すでにクロックが用意できている状態では、エネルギーをはがす効果はテンポに何ら影響を及ぼさない。
 旧裏面環境では、《エネルギー・リムーブ》にはコインを投げるという表記がなかった。相手のエネルギーカードを必ず1枚トラッシュすることが出来たため、テンポを奪う非常に強力なカードであった(現在では、エラッタが出てコイントスとなっている)。


 テンポを奪うカードとして、もう一例。
 旧裏面環境に、《突風》というカードが存在する(現環境では、《フラダリ》、もしくは《ポケモンキャッチャー》)。効果は、以下の通りである。
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 《突風》

 相手の控えポケモンを1匹選び、相手の対戦ポケモンと入れ替える。
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 もし、相手のベンチにエネルギーを2枚つけたポケモンがいたとする。そのポケモンを《突風》でバトル場に呼び出して、倒すことが出来たとしよう。
 すると、クロックを用意するために行った、相手の2ターン分の行動(ポケモンにエネルギーを2枚つけた行動)が無駄になったことと同義であると言える。即ち、《突風》を用いることで、2ターン分のテンポを獲得したのである(相手から見れば、テンポを失った)。

 前項までの(1)~(3)は、デッキ構築段階で投入するポケモンにより発生するテンポアドバンテージである。一方、これらテンポを奪うカードは、使用するタイミングやプレイングにより、エネルギーを失わせて相手のクロックを奪うことで、能動的にテンポを得ることができる。効果的なタイミングで使用することで、驚異的な減速効果をもたらすことができる。
 

●先手番の優位性

 ここまで、テンポの獲得方法について説明してきた。ポケモンカードゲームにおいて、時間はターンという形で互いのプレイヤーに平等に与えられている。従って、ターン中の行動が相手よりも効率的・経済的であれば、それがテンポアドバンテージに繋がる。

 では、今度は互いに全く同じデッキを使用した場合、例えば、以下の状況を考えたとき、どちらのプレイヤーが勝つだろうか。
 クロック上は、3:3の互角である。
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  ・A氏のバトル場 : HP60、1エネ20ダメージのワザを持つポケモン
  ・B氏のバトル場 : HP60、1エネ20ダメージのワザを持つポケモン
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 もし、「先手番のプレイヤーが勝つ」という回答に辿りついていれば、あなたは、テンポを正しく理解している。
 ・・・・・・納得できないならば、A氏を先攻として、ゲームの流れを下記に示そう。

  ■先攻 第1ターン: A氏 エネルギー1枚目をつける、A氏の攻撃 → 残り HP40
  ●後攻 第1ターン: B氏 エネルギー1枚目をつける、B氏の攻撃 → 残り HP40
  ■先攻 第2ターン: A氏 A氏の攻撃 → 残り HP20
  ●後攻 第2ターン: B氏 B氏の攻撃 → 残り HP20
  ■先攻 第3ターン: A氏 A氏の攻撃 → 残り HP0 (A氏の勝利)

 このゲームは、常に先手番のプレイヤーが勝つことになる。
 ターンは互いのプレイヤーが平等に得られるため、ターンアドバンテージ上は等価である。また、互いのターンを1往復した段階では受けているダメージ(クロック数)も等価であることから、テンポアドバンテージも等価である。・・・・・・しかし、よく見てほしい。これはターンが「1往復した」段階で、初めて等価の状態となる。実際の場は、片方のプレイヤーのターンが終了するごとに変化する。
 そう、このゲームでは、先手番のプレイヤーは、自分のターン終了時に1ターン分、相手よりも先に進んでいる。言い換えれば、先手番であることで、1ターン分のテンポアドバンテージを得ているのである。

 自分の場にまともなアタッカーが存在しないとき、犠牲となる壁ポケモンを出して自分のポケモンを育てて時間を稼ぐというプレイングをすることがあると思う。壁ポケモンがきぜつした後、育てたアタッカーで先に殴ることが可能となるため、このプレイングは、まさに先手・後手を入れ替えるプレイングなのである。自分の場のポケモンを1匹献上することでカードアドバンテージとサイドカードを失う代わりに、先殴りを可能としてテンポを得ているのである。
 

●テンポとプレイング

 ここまで、テンポを得るための方法や行動を述べてきた。このテンポの考え方は、プレイングを行うときに真価を発揮する。即ち、テンポの観点で盤面を考えたとき、クロックを定量化することで現状の有利・不利を数値で評価し、自分にとっての脅威が何であるかを判断できる。そして、採りえる選択肢の中から、テンポアドバンテージを得るための最大効果の高いプレイングを選択することが可能となる。

 例えば、「ポケモンカードゲームXY はじめてセット」を用いて、A氏がケロマツデッキ、B氏がハリマロンデッキをそれぞれのデッキとして対戦を行い、下記のゲーム状況となったとする。その時のクロックの移り変わりから、テンポを定量化して見てみよう。
 (下記に記載する各カードの効果は、リンク先参照)。

ターン 行動      A氏の場 B氏の場      クロック
ゲーム開始時 ---   【バトル場】カモネギ(HP:70) 【バトル場】ハリマロン(HP:60)   ---
先攻 第1ターン
(A氏)
・《水エネルギー》を《カモネギ》につける 【バトル場】カモネギ(HP:70) 【バトル場】ハリマロン(HP:60) 2:4
後攻 第1ターン
(B氏)
・《草エネルギー》を《ハリマロン》につける
・ハリマロンの「はたく」で攻撃(10ダメージ)
【バトル場】カモネギ(HP:60) 水 【バトル場】ハリマロン(HP:60) 2:3
先攻 第2ターン
(A氏)
・ベンチに、《ケロマツ》を出す
・《水エネルギー》を《ケロマツ》につける
・《カモネギ》の「ネギでたたく」で、攻撃(30ダメージ)
【バトル場】カモネギ(HP:60) 水 
【ベンチ】ケロマツ(HP:60) 水
【バトル場】ハリマロン(HP:30) 草 1:5
後攻 第2ターン
(B氏)
・《ハリボーグ》に進化
・《草エネルギー》を《ハリボーグ》につける
・《ハリボーグ》の「やどりきのタネ」で攻撃(20ダメージ&10回復)
【バトル場】カモネギ(HP:40) 水 
【ベンチ】ケロマツ(HP:60) 水
【バトル場】ハリボーグ(HP:70) 3:2
先攻 第3ターン
(A氏)
・《クラッシュハンマー》を使用して、《草エネルギー》をトラッシュ
・《水エネルギー》を《ケロマツ》につける
・《カモネギ》の「ネギでたたく」で、攻撃(30ダメージ)
【バトル場】カモネギ(HP:40) 水 
【ベンチ】ケロマツ(HP:60) 水
【バトル場】ハリボーグ(HP:40) 草 2:3
後攻 第3ターン
(B氏)
・《きずぐすり》を使用して、HPを30回復する
・《草エネルギー》を《ハリボーグ》につける
・《ハリボーグ》の「やどりきのタネ」で攻撃(20ダメージ&10回復)
【バトル場】カモネギ(HP:20) 水 
【ベンチ】ケロマツ(HP:60) 水水
【バトル場】ハリボーグ(HP:80) 草 3:2

 ゲーム開始時、バトル場に登場した《カモネギ》と《ハリマロン》では、ポケモンの攻撃力に差が存在する。これにより、相手ポケモンを倒すまでのターン数に違いが生じ、クロックの均衡が破られる。結果として、A氏がテンポアドバンテージを得ている状態になる。
 さらにA氏は先攻第2ターン、ベンチにポケモンを追加した。これにより、B氏がA氏のポケモンを全部倒すために必要となるターン数は2ターン増加する(B氏のクロック:3→5)。加えて、A氏が攻撃を行うことで自身のクロックが減少する(A氏のクロック:2→1)。これらの行動によりA氏はテンポを稼ぎ、結果として先攻第2ターン終了時、クロックはA氏に大きく傾いている(1:5)。即ち、A氏が4ターン分のテンポアドバンテージを得て、圧倒的に優位な状態となっている。

 一方でB氏はこの脅威に対抗するため、後攻第2ターン、《ハリボーグ》に進化を行った。これによりHPが上昇し、ポケモンの場持ちが良くなることでテンポを獲得する。さらに、進化により攻撃力も上昇するため、相手の場のポケモンを倒すまでのクロック数が減少する。この結果、クロックの均衡が逆転し、B氏がテンポアドバンテージを得ている。
 対してA氏は先攻第3ターン、《クラッシュハンマー》を用いてエネルギーカードを1枚はがした。ハリボーグのワザ「ニードルアーム(50ダメージ)」で攻撃できるようになるまでの時間が1ターン遅れる。これによりテンポを奪い、クロックの均衡を再び逆転させている。
 応じてB氏は後攻第3ターン、《きずぐすり》を用いた。HPを回復することで、《ハリボーグ》が倒されるまでのターン数を増やして、テンポを獲得する。これにより、テンポアドバンテージは再度B氏が得ている状態になる。

 このようにして、対戦中のクロックを定量的に評価し、テンポの移り変わりを見ることが可能となる。今回の例では、簡単なカードプールでテンポアドバンテージの移り変わりを示したが、テンポアドバンテージはカードアドバンテージと異なり勝利条件に直結するため、互いのプレイヤー間での奪い合いが激しい。
 実際の対戦においては、例で示した状況よりも複雑な状況であることが殆どである。また、特別に考慮しなければならない事象も多数存在するだろう。だが、単純化して見ていけばクロックの数値として表されるため、互いのプレイヤー間でのテンポの奪いあいを定量的に評価できる。そして、これらの数値情報を基に、定量的に最大効果の高いプレイングを判断できる。

 対戦中、常にテンポの視点からも場の状況を見て欲しい。互いのプレイヤー間でターンが回ってくるごと、目まぐるしくテンポの奪いあいをしていることが判ると思う。この事も踏まえ、効率よく、効果的にテンポを稼いでいけるようにカードを使用することが出来れば、確実にプレイングが上達するだろう。
 

●テンポと環境

 最後に、環境におけるテンポについて記載する。
 ここまで、ポケモンカードゲームの対戦におけるテンポの意義や獲得法について述べてきた。だが、テンポという概念は対戦中だけではなく、ゲーム環境を評価する上でも役に立つ。どのように用いるかというと、メタゲーム上の主要なデッキのアタッカーによる攻撃力(クロック数)を判断することで、環境上優位・不利なデッキを判断することが可能となるのだ。私は、これを環境における「ダメージ均衡点」と呼んでいる。

 例として、WCS2011の環境におけるダメージ均衡点について述べる。
 この環境では、レシバクやゼクトルなどの120ダメージを与えるデッキがメタゲームを席巻しており、ダメージ均衡点は120であった。そうなると、環境上、130以上のHPを持つポケモンが有利になる。なぜならば、攻撃側のクロックが2ターンとなるためである。このことを念頭にアタッカーを選定することで、デッキ構造上テンポを稼ぐことができ、優位に立ちまわることが可能となる。
 逆に言えば、HP120以下のポケモンでは、クロックが1ターンとなってしまうため、全て同じ存在である。言い換えれば、HP120以下のポケモンをメインアタッカーに据えたデッキは、環境的に不利になっている。

 また、《レシラム(L1)》や《ゼクトル(L1)》など、多くのアタッカーのHPは130であったため、攻撃力:120ダメージのデッキにおいては、《プラスパワー》など、攻撃力を10上げるカードがクロック数を下げる可能性があり、テンポを稼ぐことができるため、環境上非常に有効となる。ただし、もしHPが150のポケモンを相手にする場合、攻撃力120ダメージを持つポケモンにとっては、全く価値のないカードとなることに留意して頂きたい。ダメージが10上がることが有効ではなく、クロック数が1ターン下がることが有効である。(もちろん、潜在的価値はある)
 


テンポという用語は、ポケモンカード業界、さらにはTCG業界においてもきちんと説明された例は殆どなく、その概念・意義・解釈が人によりバラバラです。
それ故、よく理解せずに用語だけをなんとなく使用している人が多数見受けられます。
本稿が、テンポに対しての一つの解釈として、あなたのプレイング技術の一考となれば幸いです。


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